その道の先駆者は大胆な仮説検証家

その道の先駆者は大胆な仮説検証家

 

ダイレクト・マーケティングの創始者 レスター・ワンダーマンの経歴

このブログでは、私が読んだ印象深い本の書評もしていこうと考えています。今日は、その第一弾です。

読んだのは、ワンダーマンの「売る広告」: レスター・ワンダーマンです。

この本の原著のタイトルは、”Being Direct: Marketing Advertising Pay” で、邦訳は副題の方を優先したようです。この本に辿り着いた経緯が思い出せないのですが、”Being Direct” の方がタイトルになっていればもっと早くに読んでいたと思うので、邦題の選択にはちょっと残念な思いです。

この本は、ダイレクト・マーケティングの世界を切り開いたレスター・ワンダーマンの自伝ですが、新しいマーケティング手法を構築したときの考え方がきちんと書かれており、形を変えたダイレクト・マーケティングの教科書とも言えるものになっています。

1920年生まれで大恐慌の時代に育ったワンダーマンは、跳び級で高校を卒業したにも拘らず、父親の死で1年で大学をあきらめざるを得なくなりました。いくつかの仕事に就いた後、知人に勧められて、19歳で兄のアーヴィングとともに広告会社を始めました。以来、曲折はあったものの、ずっと広告業界に身を置きダイレクト・マーケティングに携わってきています。

ワンダーマンが仕事を始めたのは大領生産・大量消費の時代で、新聞、ラジオ、テレビを通したマスマーケティングが興隆してきた時代でもありました。当時、彼が手がけたダイレクト・メールは、通信販売という特殊な業界でのコミュニケーション手段と言う位置づけでした。

大量生産品の広告にも次第にダイレクト・メールが取り入れられるようにはなりましたが、あくまでもテレビの広告等によるイメージ戦略が主役で、ダイレクト・メールは戦術的な補助手段でした。

そのような状況下で、ワンダーマンは、デモグラフィックスや価値観の多様化の傾向をいち早く看てとり、永年にわたって数々の試みを成功させることにより、ダイレクト・マーケティングを企業が顧客との関係を樹立する上での戦略的重要手段に押し上げたのです。

ワンダーマンの仮説検証の凄さ: まだ発展途上の行動心理学まで大胆に応用

企業家の自伝というものは、過去の成功事例が羅列してあることが多いものです。事例のひとつひとつはそれぞれの時代で非常に意味のあるものであったとしても、時代が下った現在では当たり前であったりむしろ時代遅れであったりするので、往々にして退屈なものになりがちです。

しかし、このワンダーマンの自伝には、一つ際立って異なる点があります。それは、全編を流れる彼の仮説検証の凄さ、大胆さです。私は、最後の方の24章を読む段になって、初めてこのことに気づきました。

24章のタイトルは、”フォード車を「一回に」少しずつ売る” です。

1979年、ワンダーマンの会社を買収した親会社Y&Rがフォードの代理店になった際、彼は品質が良いのにキャデラックより売れ行きが劣るリンカーンの販売を促進する方法を思いつきました。それは、車を広告するのをやめリンカーンを買うように「教える」というものでした。

このアイデアのもとになったのは、行動心理学者スキナー博士が鳩にピアノの鍵盤を特定の順番についばむように教えた実験でした。鳩は音を一つ覚えるたびに餌を与えられ、学習能力を高めていくという成果です。

ここでのポイントは、スキナーは鳩の行動だけを変えようとし、鳩の音楽的嗜好については全く気にかけなかったことです。

ワンダーマンは、同じことが車を買おうとしている人にも当てはまらないかと考えました。車を買おうとしている人にリンカーンを検討するように「教え」られるのなら、イメージ広告でリンカーンを好きになるように仕向けたり、インセンティブで釣る等のことが全く不要になると考えたのです。

広告業界関係者としては何とも大胆な仮説ですが、彼はさらにその検証に進みます。旧友のMIT人類学教授ハンス・グッゲンハイム博士に学習について教えを乞うたのです。博士によれば、簡単な算数を学んだ人が微積分額を理解できるようになるのは計画された「カリキュラム」があるからだそうです。

カリキュラムは、学習者が消化できる大きさ(チャンク)の真実を一度に一つずつ教えていき、最後にテーマ全体を理解させるようになっています。これと同じ「リンカーンの購入を検討する気になる」学習カリキュラムを作れば良いというのです。

ワンダーマンは、博士の助けを借りてカリキュラムの試案を作り、フォードの経営者を説得して実地実験を行い大成功させました。そのやり方はカリキュラム・マーケティングを名付けられました。

この方式は、その後のフォードの販売方式の主流となっていきますが、ものを売る世界だけでなく、さらにダイレクトでなくても、我々コンサルティングのようなサービス業界でも、広く大いに参考になると思います。個人的には、このような(鳩の実験から学ぶ)発想は無かったので、ひたすら唸ってしまいました。

ワンダーマンは、このような常識に囚われない仮説を次々立て、それを広告の現場で検証し続けることにより、ダイレクト・マーケティングの世界を確立したのです。

「常識に囚われない」、「大胆に仮説検証をする」ことの重要性を学ぶには非常に優れた教材だと思います。

ワンダーマン売る広告

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