なぜお客様の心配事の背景を聞いてこれないのか? ー 事前の準備(大雑把でも構わない仮説)こそが命

なぜお客様の心配事の背景を聞いてこれないのか? ー 事前の準備(大雑把でも構わない仮説)こそが命

ある企業がアカウント営業を始めて困ったこと

ある企業が、潜在的な受注規模の大きそうなお客様ごとにいわゆるアカウント営業を配置して活動を始めました。既に顕在化した案件の対応だけでなく、お客様の潜在的な心配事まで把握することにより受注拡大につなげるのが狙いです。

ところが、一通りアカウント・プランを立てて臨んだものの、顕在化した案件に対してすら案件が発生した背後の理由を聞くことができず、付加価値のある提案ができずにいます。

担当の営業の人たちに理由を聞くと、「自分たちにはお客様ビジネスの知識が無いので、お客様が言われた内容の背後まで踏み込めないから」と返事が返ってきます。

ベテランのコンサルタントはどうしているのか?

私は長い間製造業専門のコンサルタントをやってきましたので、製造業のビジネス知識はかなり持っています。でも完璧ではありません。電機・電子業界に関わることが多かったので、自動車やプロセス・重工業界の知識は不足していて、その業界のお客様の用語がわからないことはしばしばあります。

それでも、業界の違うお客様とでもある程度の会話はできます。それは、ビジネス課題の解決パターンを理解しているからです。

ここで「ビジネス課題の解決パターン」という言葉で指しているのは、サプライチェーン・マネジメントや集中購買といった言葉で示される、多くの企業で共通して起こる問題とその(概略の)解決策のセットのことです。

いくら経験のあるコンサルタントでも、このビジネス課題の解決パターンも当てはまらず業界の言葉も理解できない状況では、一から勉強をするしか手はありません。

多くのコンサルタントは、新人としてこの状況からスタートしています。下っ端として参加したプロジェクトの中で、「ビジネス課題の解決パターン」とそれを理解するのに必要な「業界用語」を習得します。その積み重ねでベテランに育っていくのです。

決して、プロジェクトの文脈とは直接関係のないビジネス知識を網羅的に獲得しようとしているのではありません。

自社が貢献できるビジネス課題に絞ろう

以上のことをアカウント営業を始めたばかりの企業に当てはめるとどうなるでしょうか?

まず、ベテランのコンサルタントでもすべてビジネスを理解している訳は無いのですから、闇雲にビジネス知識を身につけようとするのは採算に合わないと考えるべきでしょう。新人コンサルタントが入れられるプロジェクトに相当する文脈を想定することから始めるべきでしょう。

次に、そもそもの目的から考える必要があります。アカウント営業の目的は、ビジネスの獲得・拡大です。そして案件が獲得できるのは、当然自社が価値を提供できるものに限られるはずです。

ということは、ソリューション営業で成功するために信じるべき2つのことで述べた図の①のように自社の提供価値から考えるべきだということです。

すなわち、自社の強みから出発するのです。その強みが発揮できそうなお客様の問題を想定して解決策のパターンを考える、それをお客様と議論できるようにする、その限りでビジネス知識を身につける、これで良しとするのです。

このようにすれば、想定した問題の範囲内ではお客様と突っ込んだ議論ができるようになります。(想定範囲外の問題に遭遇したら、お客様に貢献できないのですから、回れ右をして帰ってくるのがお客様のためでもあります。)

これが最初にやるべきソリューション設計です。

もちろんソリューションを設計する人にはもう少し幅広いビジネス知識が必要となりますが、当初は外部のコンサルタントを雇う等してこの知識を補充すれば良いでしょう。

それでもソリューションが設計できないのは仮説思考の問題

ソリューションは、そこまで厳密に設計されたものである必要はありません。お客様と問題の共通理解ができて、自社がその解決に貢献できることが伝わればそれで良いのです。(実際の詳細なソリューションの構築は、お客様との合意後で構わないはずです。)

ところが、実際に多く見られるのは、他のお客様で既に開発したソリューションの事例を紹介することはできても、これからのソリューションのラフ・スケッチを提示することができないということです。(事例が使えない場合は、ひたすらご用聞きになってしまい、冒頭で述べた「問題の背景に切り込めない」という事態になるのです。)

この原因は、「仮説思考」というものが理解できていないからでしょう。

お客様が自分の問題を理解できているときは、お客様の説明を受ければそれで済みます。

しかし、お客様自身が問題をきちんと整理できていない場合には、最終的に問題が落ち着く先に様々な可能性があります。それらを一つ一つ網羅的に検討していくのは膨大な作業を必要とし、現実的ではありません。

その代わりに、「多分こうだろう」というものをヤマカンでも良いから出すのが仮説です。一旦仮説が提示されると、人間は批判するのは得意なので、それが合っているかどうかは比較的容易に検証できます。

はずれていても修正するのも比較的容易なので、仮説をいくつか出せば、はるかに効率的に問題の定義が進みます。問題の解決策についても同様です。

正解志向の罠を断ち切ろう

ここで理解すべきは、「間違った仮説でも役に立つ」ということです。自分が「多分こうだろう」と思った仮説が否定されるのはショックかもしれませんが、そこで得られる情報量は非常に大きいです。それをもとに次の仮説の精度をかなり上げることができます。

学校では教えてくれないコンサルタントになるための条件 でも述べましたが、日本の学校教育では正解だけを学ぶので、日本人は間違っているかもしれないことを口に出すのを躊躇う傾向があります。特に、お客様に対して間違ったことを言うと、自社の評価が下がりビジネスを失うのではないかと危惧しがちです。

問題がはっきりしないからこそ仮説が必要なのに、その仮説の正解(問題の正しい定義)を述べようとして身動きが取れなくなるのです。

ここで必要とされるのは、発想を百八十度回転させることです。お客様も問題がはっきりさせられず困っているのですから、全く見当違いのことを言わない限り、議論を進展させるための仮説は評価されるはずだと考えるべきなのです。

ソリューション営業の終わり? インサイト営業の始まり? で触れた「インサイト」というのは、たとえ間違っていたとしてもお客様の考えを進めるので価値があるものを指すのです。

まとめ

合っていても間違っていてもよいから、そして大雑把でも良いから、自分たちが得意な領域でお客様が「おやっ?」と思うような仮説を提示しましょう。そうすれば議論が進み、お客様が自然に自分の問題の背景を語ってくれます。図の①での仮説提示が有効であれば、②が進み、最終的にソリューションが見つかるのです。

ただし、少し考えれば分かるように価値のある仮説を作るのはそう簡単ではありません、だからこそ、事前の準備こそが命と心得ましょう。そして、この準備のための(そしてその限りでの)ビジネス知識を獲得しましょう。

(「仮説思考」のスキルをどのように磨くかについては、仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法: 内田 和成 等の書籍を読んで頂ければと思います。ただ、そもそも何故仮説思考ができないかについて触れた解説が見当たらなかったので、その説明で長くなりました。)

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