変革を妨げるコンサルティングの契約パラダイム

変革を妨げるコンサルティングの契約パラダイム

 

NFLの名コーチのセリフ:「トレーニングキャンプではスーパーボウルに出場することを目標としない」

今年のスーパーボウルでは、思いのほかの大差でシーホークスが勝利しましたね。私はどちらのチームも好きなのですが、どちらかと言えばキャリアの終わりにさしかかっているマニングがいるブロンコスに勝たせたかったと、ちょっぴり残念です。

ところで次のセリフは、NFLで3回違うチームを再生させた名コーチ Bill Parcells が Turn Around a TEAM で語っているものです。

”トレーニングキャンプでは「スーパーボウルに出場する」ことを目標としない。すぐに達成できそうな目標(「どんなときも全力でプレーする」等)をセットする。”

彼は、大きな成功を得ようとするためには小さな成功で自信を得ることを積み重ねるのが大切である、と言っているのです。

前回、”書いてなんぼ” ではなく ”変えてなんぼ” だと書きましたが、実際にお客様のビジネスのやり方を変えようとするとき、Parcells の言っていることが極めて重要になります。

変革は「できる」と思わなければ実現しない、だから細かくする

変革を起こそうという際に心得ておかなければならないのは、「人は変化を嫌う」という事実です。その昔、とある大会社の社長が変革を引き起こそうとして旗を振ったのに成功せず、「社員が馬鹿だから」と口にして総すかんを食ったことからも、この事実が自明ではないことがわかります。

この「人は変革を嫌う」という事実をもとに、コッター達によって「チェンジ・マネジメント」という体系が作られてきました。

「人が変化を嫌う」という状況下で変革を引き起こすには、2つの条件を満たす必要があります。一つは、その変革に価値があると思えることです。もう一つは、その変革を「できる」と思えることです。

Parcell は、この後者のことを言っているのです。

インフルエンサーたちの伝えて動かす技術 6つのレバレッジポイントが人と組織を大きく変える!: ケリー・パターソン にも「壮大な目標は小さな単位に分割する」とあり、スイッチ! 〔新版〕― 「変われない」を変える方法: チップ ハース, ダン ハース にも「変化を細かくする」と書かれています。

変革を妨げるコンサルティングのビジネス・パラダイム

ここまでのことは、よくよく考えてみると当たり前のことであり、「やればいいじゃん」と反応しそうです。しかし、コンサルティング・ビジネスでこの方法をとろうとすると、一つ障害があります。

それは、コンサルティング・ビジネスのパラダイムが図の左側のようになっていることです。このプロセスは、コンサルティングの教科書 経営コンサルティング 第4版: ミラン クーバー, ILO(国際労働事務局) にあるものを少し簡単化したもので、広く受け入れられています。

コンサルティング プロセス

このプロセスでは、「診断」で何が問題か、何を解決するか (WHAT) を決め、次に「実施計画立案」でその解決策 (HOW) を策定し、最後に「計画実施」で解決策を実施 (MAKE) することになっています。実際には、これらの段階が一挙に進むことは無く、「診断」や「実施計画立案」で最低でもそれぞれ3ヶ月程かかり、それらごとに別契約をするのが普通です。

この手順が意味するのは、最初の診断結果には間違いが無く、解決策が正しく、最後にその解決策を一挙に実現できるということです。これは、右図の「変化の単位を細かくし、診断・実施計画立案・計画実施を反復的に繰り返す」アプローチとは相容れません。(このことは、ソフトウェア開発の世界では、ウォーターフォール・モデル と 反復型開発 の比較として良く知られています。)

クライアントとコンサルティング会社は別会社ですから、お互いのリスクを軽減するために、このような段階を踏んでいくのは理解できることです。一方で、本当にクライアントのビジネスを変えようとすれば、当初予想もしていないような障害に出くわすことも多いですし、上述の「変化を嫌う」人々のことも考えなければなりません。そのような場合には、変化の単位を細かくするアプローチの方が有効です。

にも拘らず、コンサルティング・ビジネスでは段階的アプローチが主要パラダイムとして広く受け入れられてきました。それは、従来のコンサルティング・ビジネスの売上の大部分を大規模なITシステム開発や業務プロセス設計等が占めてきたからです。それらの「仕組づくり」では、(誤解や錯覚も含めて)問題そのものは比較的明確なのでリスクを避けることの方が重要となり、段階的アプローチが広く使われてきたのです。

変革を成し遂げるには、お客様とコンサルタントの信頼関係の確立が必須

ただよく考えてみると、「仕組」というのは問題を解決するための手段ですから、本当にお客様の問題を解決しようとすると、どこかでこのアプローチは破綻する可能性があります。

”書いてなんぼ” ではなく、”作ってなんぼ” でもなく、”変えてなんぼ” を目指すなら、どこかで反復的アプローチに移行する必要がある、というのが私の個人的意見です。

しかし、そのためには、段階的アプローチが使われてきた理由の一つである契約上のリスクが低減される必要がああります。すなわち、お客様との間に信頼関係が成立している必要がああります。

これが、コンサルタントの本分は、良い仕事をしてお客様に信頼され、継続的なビジネスを獲得することであると言われる所以です。

 

サブコンテンツ

このページの先頭へ