その引き算に意味があるのはどういう場合か?

その引き算に意味があるのはどういう場合か?

 

今日は、「Right Questions ができれば、大学院の講義も作れる」の最終編です。

(実はこのテーマで書こうと思えばいくらでも書けそうなのですが、同じテーマを続けると読んでいる方にも書き手の私にも飽きがくると思います。今後はこの大学院講義に関しては、その作り方ではなく講義内容のビジネスモデルそのものについてお話ししていくことにします。)

引き算の意味を問う質問をしたら、講義の構造を作れた

講義内容を作っていて一番頭を使ったのが、WTP (Willingness To Pay) のところでした。個別のベネフィットや顧客が負担するコストに関するビジネスモデル上の工夫を説明し終わった後で、「まだWTPのところで説明することがあるのだろうか、あるとすれば何が残っているのだろうか?」と悩みました。

しばらくして気がついたのは

  WTP = ベネフィット – コスト

という引き算の形をしていることでした。

そこで、「この引き算に意味があるとすれば、どういう場合だろう?」と考えてみました。

この質問を思いついてしまえば、後は簡単です。WTPの価値を上げる(WTP↑)ことを考えれば良いので、以下の9通りのパターンを検討すれば良いことになります。

  1. ベネフィット↑ – コスト↑
  2. ベネフィット↑ – コスト→
  3. ベネフィット↑ – コスト↓
  4. ベネフィット→ – コスト↑  (これはWTP↓となるので不可)
  5. ベネフィット→ – コスト→ (これもWTP→となるので不可)
  6. ベネフィット→ – コスト↓
  7. ベネフィット↓ – コスト↑   (WTP↓となるので不可)
  8. ベネフィット↓ – コスト→  (WTP↓となるので不可)
  9. ベネフィット↓ – コスト↓

1は、富裕層や高機能を求めるハイエンド顧客を狙った戦略で良くある話です。2、3は、それがもっとうまく行き対象顧客層を広げられる理想的な状況です。6はベネフィットを固定したまま顧客の負担コストを下げるので、WTP以前の話です。

となると、ビジネスモデルの講義で取り扱って面白そうなケースは9だけということになります。この目つきで文献を調べると、該当事例がうじゃうじゃ出てくるから面白いものです。

顧客セグメントを絞って付加価値の低い機能を絞る戦略

このようにして見つけた事例を比較検討して講義資料を作った訳ですが、そこで気づいたことを以下にまとめておきます。

たとえば、ビジネスモデル構築戦略として語られているものに、以下のようなものがあります。

いろいろな言葉で語られていますが、抽象度を上げればこれらの本で挙げられているビジネスモデルは基本的なところは共通しています。すなわち、WTPの向上のために以下のようなことをやっています。

  1. 一部の顧客セグメントにとって付加価値の低い機能を削減し、商品・サービスを簡素化する。
  2. 同時に、商品・サービスを提供する仕組も簡素化し、低価格を実現するとともにサービス提供時間の短縮や商品の使い方の学習容易化等で顧客の負担コストも軽減する。
  3. 仕組の簡素化で損益分岐点を下げ、高回転率で利益を向上させる。
  4. 業界リーダーが既存経営資源を有効に使えなくなることを参入障壁とする。

この代表事例はQBハウスでしょう。サービスをカットだけ絞り低価格を実現するとともに、サービス時間の短縮により顧客の待ち時間も短縮しています。洗髪等を不要としている顧客にはベネフィットも減っていないところがミソです。

ブルー・オーシャン戦略――競争のない世界を創造する: W・チャン・キム, レネ・モボルニュに出てくる「飲みやすいワインだけに絞ったイエロー・テイル」や「女性専用ヘルスクラブのカーブズ」等も、この範疇に属しています。

ところが、これらの本のどれ一つとして、他の本が挙げている事例に言及することも無ければ、またそれらが統一的な枠組みで説明できることに触れてもいません。

研究者が書籍を出版して自分の業績を宣伝すると言う観点からは、このことに特に問題はないのかもしれません。しかし、初学者が世の中に蓄積された事例から学ぶと言う観点からは、もう少し工夫があって然るべきです。

まとめ:Right Questions は非常に有効

初学者用の講義を作る場合には、図に示した顧客定義のような統一的なフレームワークを用いて見通しを良くすべきです。またフレームワークを効果的に使うためには、「引き算に意味があるのはどういう時か?」という類のRIght Questionsが有用です。

これらの主張を再度力説して、このシリーズを終わります。

顧客価値定義 

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